
Apple News+の仕様変更でメディアのPVはどうなる?話題のApple News+とは何かをざっくり解説
Appleが展開しているサブスク型記事・雑誌読み放題サービス「Apple News +」をご存知でしょうか?
Appleが次回のOSアップデートから、仕様を一部変更すると発表しました。
Woah, I wonder how many publishers in Apple News+ realize that the new iOS14 and MacOS Big Sur are by default intercepting traffic to their sites and sending it to the Apple News app instead. pic.twitter.com/k4PQG9mE7M
— Tony Haile (@arctictony) August 10, 2020
ChartbeatのCEOであるHaile氏のツイートが話題になっていましたが、今回のアップデートによってSafariの検索結果からのニュースメディアのリンクをクリックするとApple News+に遷移する仕様になったそうです。
日本未上陸のサービスですが、今後上陸することも十分考えられるApple News+。
今回は、
・どんなサービスなのか
・仕様変更はどんな影響が予想されるのか
・Apple News上陸の可能性はどのくらいあるのか
・上陸した際の影響
について考察していきます。
1.Apple News+は、どんなサービス?
Apple News+は、2019年にアメリカでリリースされた有料サブスクリプションサービスです。”Appleの作る記事版Netflix”とイメージしてもらうのが近いです。
Appleはもとから、Apple Newsというニュースキュレーションサービスを展開していましたが、Apple News+はその有料版です。Apple Newsは全世界で1.2億人以上のユーザーがいると言われており、世界最大のニュースサービスになっています。
コンセプトメッセージは、
"Hundreds of magazines
and leading newspapers.
One subscription."
登録者は、参画しているメディアの記事を、1つのアプリで読むことができます。また、メディアごとの契約も不要になり、複数メディアの記事が読み放題になります。
費用は、月額$9.99。月額$20を超えるメディアもある中では、中間的な値付けとなっています。
Leading newspapersと銘打つだけに、
The NewYork Times
Washington Post
The Wall Street Journal
Los Angeles Times
といった著名新聞紙から
TIME
Forbes
Business Insider
Vox
などのグローバルニュースメディアが参画しています。
Apple News+のメリットは、ユーザー目線/パブリッシャー目線で色々とあります。
◼︎ユーザー目線
・Apple News+に登録するだけで、複数サービスが読み放題になる
・Apple News+のアプリ内で複数メディアの記事閲覧が完了するので、複数のページやアプリを行き来する手間がなくなる
・$9.99は、複数のメディアの有料登録するよりは安い
◼︎パブリッシャー目線
・自社ターゲット外のユーザーから収益を得られる
・ターゲット外のユーザーとの新しいチャネルを獲得できる
一方でもちろんデメリットや懸念もあります。
◼︎ユーザー目線
・目的としているパブリッシャーが、Apple News+から抜けてしまった時に、魅力が薄れる
実際に、今年の6月にThe NewYork Timesが無料版Apple Newsへの記事配信を停止しました。Apple News+で同じことが起こるかもしれません。
・複数のメディアの記事を読まないと、割高になってしまう
◼︎パブリッシャー目線
・自社サービスに直接登録するより利益が薄まってしまう(取り分は、50%がApple。残りをパブリッシャーで分配されている)
・ユーザーへの直接の働きかけが難しく、登録継続が外部要因に左右されやすい
・自社サイトでのPVにつながらず、1st Party Dataが取得できない
実際に、Apple News+が収益に貢献できていないとするパブリッシャーの声が上がっています。
(参考記事)
2.Apple News+の仕様変更ってどういうこと?
さて、今回の仕様変更の内容と、それに伴うパブリッシャーへの影響を考えていきましょう。
変更内容を一言で言うと、
「今までは、Safari内のページに移動していた物が、Apple Newsアプリが起動してニュースを閲覧するようになる」
ということです。
まず、今までは、Safariでニュースを検索すると、そのままSafari内で記事ページが開きました。
今回の仕様変更により、今までSafariで見られていた記事が、Apple Newsのアプリ内で読まれるようになります。
発表された変更はこれだけですが、どんな影響が出るのでしょうか
この変更をリークしたHailie氏はTwitterで以下のような点を指摘しています。
・トラフィックがHPからApple Newsに移動することで、サイトのコアなユーザーがHPから離れてしまう
・Appleがユーザー行動を把握できなかったブラウザのページから、Appleが把握できる自社アプリの中に行動する場所を変更するようになる
これらを踏まえて、ユーザー目線/パブリッシャー目線/Apple目線でのメリットデメリットを整理しましょう。
◼︎ユーザー目線
メリット
・より快適なUX
今まで、Apple News+ユーザーがSafariで読みたい有料記事を見つけてもそのまま読むことはできませんでした。Apple Newsアプリを開いて、読みたい記事を見つけ直さなければ行けませんでした。
今回の変更によって、この点は大きく改善され、記事発見から閲覧までをシームレスに行えるようになります。
デメリット
・閲覧場所の自由度の低下
Safariでページを開こうとしたときに、アプリが起動するのは想定していないとストレスになります。この点に関して、リンクを踏んだときの遷移先を選択できるとAppleは説明しています。
◼︎パブリッシャー目線
メリット
・UX向上による登録者の増加
Apple News+のサービスの質が高まり、登録者が増えれば、パブリッシャーの収益は増えます
デメリット
・自社HPのトラフィック減少
アプリに遷移することで自社サイトへのアクセスがアプリに移動します。
これにより、収集できるデータ量の減少やサイト内広告収益の低下といった悪影響が考えられます。
・サービスエンゲージメントの低下
直接アプリを訪れる経験が減ることで、ユーザーのエンゲージメントが下がる可能性も懸念されます。これにより、サイトブランドの弱体化や自社会員数の減少につながってしまうこともあり得ます。
◼︎Apple目線
メリット
・Apple News+の登録者上昇
・Apple Newsブランドの強化
Apple News+から売り上げを生み出すのは、登録者の数です。
サービスを強化することで、登録者を増やしていくのはAppleにとって最も重要な指標です。
・Apple News利用データの収集量増加
Appleのアプリで閲覧させることで、Appleが取得できるデータは増加します。
デメリット
・参画パブリッシャーの離脱
Apple News+の価値は、参画しているメディアのブランドとコンテンツです。プラットフォーマーとして強い立場にあるとはいえ、完全に無視することもできないでしょう
仕様変更がうまくいくかは、実際にパブリッシャーの反発を招かないかにかかっています。
3.日本のメディアが今後対策しておくべきことは?
さて、話を日本に移しましょう。
2020/08/12時点では、Apple Newsは日本でのサービス展開をしていません。
しかし、上陸しないと明言されているわけでもありません。
・今後サブスク型のApple Newsも含めて、日本でのサービス展開はありうるのか。
・実際に、日本展開が起こったときに起こる影響はどんなものか。
・対策しておくべきことはどんなことか。
を考えてみましょう。
まず、Apple News(+)が日本にやってくるのか・こないのか、その要因になりそうなものを考えます。
上陸すると考えられる理由は以下のようなものがあります。
・Appleのサービス企業への転換の一環
・Apple Newsのグローバル展開
一方で、上陸してこないと考えられる理由は以下のようなものがあります。
・サブスク型メディアの成功例の少なさ
・Yahoo! ニュースなど既存キュレーションメディアの強さ
・日本語のプレミアムメディアを集めるハードル
上陸するとなった場合、起こりうる影響の一例は以下のようなものが考えられます。
・Yahoo!ニュース、スマートニュースとの競争
・ニュースメディアのキュレーションメディアへの依存度向上
・Apple News+に参画できるかどうかが、ニュースメディアのブランドになる
・メディアサブスクサービスの浸透
・広告収益の重要性低下
・広告収益の減少(特に、ネットワーク広告)
国内スマホ人口の8割がiPhoneである日本において、デフォルトでApple Newsがインストールされることになれば、Yahoo!ニュースやスマートニュースにとって無視できない黒船となるでしょう。
それだけではなく、自社サイトのトラフィックが減少することで広告収益が減少したり、媒体価値の判断をAppleに握られたりすることも考えられ、日本のパブリッシャー全体に影響があることは間違いありません。
これらを踏まえて、今から対策しておくべきことはあるのでしょうか。
基本的には、媒体としての価値を高めて、ユーザーのエンゲージメントを強めることが最も重要になります。
さらに、収益がPV数に依存する広告型のメディアは、収益ポートフォリオを組み換えることも検討する必要があります。Apple Newsは他のキュレーションサービスと比べても、パブリッシャーの収益化に対する姿勢が弱いと批判されており、安易に依存するのはリスクが大きくなります。
理想は、どんなサービスがやってきても自社の媒体を好きで選んでくれるファンを形成できることです。
これには、日々のコンテンツ設計から、サイトスピードや表示レイアウトまで、UX全体を意識したサイト運営が必要です。
4.まとめ
ここまでで、Apple News+の遷移先変更というトピックから、パブリッシャーとして対策しておくべきことまで考察してきました。
より具体的な影響や、Apple Newsの詳細について知りたい方は、コメントにご質問くださいませ。
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5.参考資料
・Tony Haile氏(@arctictony)のTwitter
Woah, I wonder how many publishers in Apple News+ realize that the new iOS14 and MacOS Big Sur are by default intercepting traffic to their sites and sending it to the Apple News app instead. pic.twitter.com/k4PQG9mE7M
— Tony Haile (@arctictony) August 10, 2020
・"Apple、iOS14と最新MacOSで検索からのニュースサイトアクセスをデフォルトApple Newsに変更"
・"iOS 14の「News+」アプリは記事提供元のトラフィックを横取りする"
・"アップルの「ニュース読み放題」アプリはメディアの敵か"
・"「Apple News」からNew York Timesが撤退「読者との関係構築に不向き」"
・Apple News+
・"Apple's new subscription bundle, Apple News Plus, is key to its revenue growth, but it's off to a slow start, publishing execs say"